動脈硬化
動脈硬化とは
動脈硬化の症状は
動脈硬化は中年以降に起きるイメージが強いかと思いますが、実際は20~30歳から始まっています。実際に血管が狭くなる数十年後にならないと症状が起こらないこともあり、知らないうちに無症状で進行することに気を付けないといけません。
症状が起きたときには、急性心筋梗塞や脳梗塞といった命に係わる重大な病気として発症しますので、無症状のときからの予防がいかに大切かお分かりいただけるかと思います。
最近の研究(特に心臓の冠動脈)では、実際に狭くはみえない血管(動脈硬化の初期)から心筋梗塞が発症することも多い、と分かってきており、初期の動脈硬化からの治療が重要となってきております。
動脈硬化の原因は
動脈硬化の原因は一つではなく、“危険因子”と呼ばれるものが複合して原因となっていると考えられております。
“危険因子”には、加齢や男性、といった自分ではコントロールできないものもありますが、高血圧や高脂血症、糖尿病や喫煙といった自分自身や治療によってコントロール出来るものもあります。
こういった危険因子をコントロールすることで、出来る限り動脈硬化の進行を予防することが重要となります。
高血圧症
高血圧は症状に現れないことも多く、“サイレントキラー(沈黙の殺し屋)”などと呼ばれることもあります。血圧が高ければ、動脈に高い圧力がかかり、動脈の壁を傷つけていくことは容易にイメージ出来るかと思います。
2019年には日本高血圧学会により、高血圧治療ガイドライン2019が改訂され、合併症のない75歳未満の成人の降圧目標が130/80mmHg未満へと強化されました。米国や欧州では以前よりこの130/80mmHg未満が治療目標となっており、ようやく日本も追いつきつつあるといえます。
よく、“血圧の薬を飲み始めると一生飲まないといけないのでは?”、と聞かれることがありますが、半分正しく半分間違っています。残念ながら現時点では根本的な高血圧の治療法はありません、なので高血圧の薬(降圧剤)を飲むことで血圧を抑えないといけないのです。ただ、もしその方が、減塩・減量・禁煙などに取り組んで生活習慣を正し、血圧の上がりにくいからだを手に入れられれば、その時はもちろん降圧剤を“卒業”できるのではないかと思います。
高脂血症
血液中の脂肪が高い“高脂血症”も、動脈硬化の強い危険因子です。脂肪分のうち、non-HDLコレステロールといわれる、LDL(悪玉)コレステロールや中性脂肪などが問題となります。
LDLコレステロールは心臓の冠動脈疾患(狭心症や心筋梗塞)と重大な関連性があり、日本人を対象とした最近の研究では、LDLコレステロールが140mg/dlを超えると冠動脈疾患が2.8倍になったとの報告もあります(Imano H, et al. CIRCS Prev Med 2011; 52: 381-386.)。診断基準は140mg/dl以上ですが、他に危険因子があるとさらに厳しい治療目標となります。また善玉であるHDLコレステロールの値も重要となります。最近では、悪玉と善玉の比である“L/H比(LDLコレステロール値/HDLコレステロール値)”も重視されております。LDLコレステロール値が正常でも、HDLコレステロール値が低いと心筋梗塞の確率が増すため、動脈硬化の予防には悪玉と善玉のバランスを示す“L/H比”が参考となります。L/H比が2.5以上だと動脈硬化リスクが上昇するため、他の病気がない場合は2.0以下に、高血圧や糖尿病、また既に動脈硬化の病気がある場合は1.5以下を目標とします。
コレステロールの値をみるだけでなく、他の危険因子や既にある動脈硬化の状態をみて治療することが大切です。循環器専門医は様々なことに目を配りながら治療方針を決定しております。
喫煙
一日20本以上の喫煙者では、虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の発生が50~60%も高くなります。喫煙は、癌や肺疾患などの病気だけではなく、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症といった動脈硬化性疾患を引き起こす強力な危険因子です。
喫煙により血管が収縮するため、高血圧の原因となりますし、血栓を引き起こす危険も高まります。さらに悪いことに、善玉であるHDLコレステロールを下げるといわれているため、コレステロールの善玉/悪玉比(L/H比)を悪化させ、さらなる動脈硬化のリスクとなります。
動脈硬化の予防・治療のためには、まず禁煙が必要であることはいうまでもありません。
肥満
肥満になりやすい方の生活習慣は、多くの場合、食事のなかの糖質(炭水化物)の割合が多く、運動習慣が少ないなどの特徴があります。結果として血液中の脂肪が増えたり、高血圧、糖尿病、睡眠時無呼吸症候群、高尿酸血症などを合併したりすることで、動脈硬化の危険因子となります。肥満のある内臓脂肪の多い人にいくつかの病態(高血圧、耐糖能障害、脂質異常症など)が重なり合った状態を、“メタボリックシンドローム”と呼んでいます。メタボリックシンドロームは危険因子が集まった状態ですので、もちろん動脈硬化のリスクが高くなります。そしてこのリスクの上昇は、まさに雪だるま式に倍々ゲームで増えていきます。
逆をいえば、肥満を解消することで、いくつもの危険因子を改善することができ、動脈硬化の危険性を自分で減らすことが出来るのです。先ずは、毎日体重計に乗り、自分の体重をきちんと把握することから始めましょう。
糖尿病
生活習慣がもとで起きる糖尿病、いわゆる2型糖尿病には高血圧や脂質異常症が合併することが多くみられます。糖尿病による動脈硬化の原因は、血液中の糖が血管の壁のタンパク質と反応を起こし活性酸素が生じて血管障害を起こす、またインスリン抵抗性によって余ったインスリンによるもの、合併する脂質異常症によるもの、などが知られております。
糖尿病による動脈硬化は全身にわたることが多く、重大な合併症として知られております。
動脈硬化の検査
危険因子の有無を調べる検査
- 血圧測定
- 血液検査(コレステロール値、血糖値、ヘモグロビンA1c、尿酸値、など)
- 喫煙歴
- BMI(ボディマスインデックス)
- 家族歴の聴取 など
動脈硬化の程度を知る検査
CAVI(Cardio Ankle Vascular Index)
動脈の硬さの指標 CAVIを計測して
動脈硬化の程度を知ることが出来ます
CAVI(キャビィ)は大動脈を含む「心臓(Cardio)から足首(Ankle)まで」の動脈(Vascular)の硬さを反映する指標(Index)で、動脈硬化が進行するほど高い値となります。血圧測定や心電図検査と同じように簡単に痛みもなく、数分で検査が出来ます。その場で結果が分かりますので、その日の診療に生かすことが出来ます。
血管年齢の評価
動脈硬化の危険因子を持たない人たちの平均値と対比することで、自分の血管年齢を評価する事ができます。同年齢の健常者よりCAVIが高い場合は、それだけ動脈硬化が進んでいると考えられます。動脈硬化を促進する高脂血症、糖尿病、高血圧などを合併しないよう、生活習慣病を是正することが望まれます。また既に疾患をお持ちの方は、よりしっかりと治療をする必要があります。
ABI(Ankle Brachial Pressure Index)
ABIを測定することで下肢動脈の狭窄・閉塞を知ることが出来ます
ABIは、下肢動脈の狭窄・閉塞を評価する指標です。上腕と足首の血圧から算出されます。ABIはCAVIと同時に測定でき非侵襲的な検査ですので、PAD(末梢動脈疾患)患者の早期発見に有用です。PAD(末梢動脈疾患)は、心血管疾患や脳血管疾患など他臓器障害との合併が多く見られることからも、早期発見が重要です。
頸動脈エコー
頚動脈エコーは簡便で視覚的に動脈硬化の診断ができる検査です。超音波検査ですので、痛みも伴わず放射線被曝もないため、繰り返し行うことができます。
エコーを使い、血管の壁の厚さ、プラークの有無や性状、血流の状態などを調べます。頚動脈の動脈硬化の状態を観察することで、脳に向かう大事な血管の状態を知れるだけではなく、全身の動脈硬化の進行度も推察できます。頚動脈の動脈硬化の程度によって、危険因子をどの程度コントロールすべきかの重要な指標となります。
動脈硬化を既に指摘されている方は、頚動脈エコーによって定期的に経過観察を行うことも大変重要です。
その他の検査
- 心電図(虚血性変化や心臓肥大の有無)
- 心エコー(大動脈弁の性状)
- 胸部レントゲン(大動脈の石灰化の有無)