睡眠時無呼吸症候群
睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome;SAS)とは
睡眠時無呼吸症候群(SAS)とは、眠っている間に呼吸が止まる、または呼吸が浅く弱くなることで、身体が低酸素状態となり、その結果日常生活に様々な障害を引き起こす疾患です。
睡眠中の無呼吸は、なかなかご自身で気付くことが難しく、ご家族やパートナーからいびきや息が止まっていることを指摘されて受診し、検査をして初めて診断されることもあります。
ご自身で気付ける症状には以下のようなものがあります。
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合計が3点以上の方は睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いです。
(監修;東京医科大学睡眠学講座/公益財団法人神経研究所/医療法人絹和会井上雄一)
SASの原因
SASの病態で最も多い原因は、肥満や喉・顎の形状等によって上気道(空気の通り道)が睡眠中に塞がる、または部分的に狭くなることです。これを閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と呼んでいます。脳内にある呼吸中枢機能の低下が原因で呼吸運動が停止して起こる中枢性(CSAS)や、OSASとCSASの混合型もありますが、やはり最も多いのは閉塞型のOSASです。
SASの怖さ
近年、SASが関連する交通事故や居眠り運転のニュースを目にすることが増えているかと思います。2012年に関越自動車道で起きた高速ツアーバスが防音壁に衝突し多数の死傷者が出た痛ましい事故、このバスの運転手にはSASの症状が確認されていたとのことです。
実際、中等度以上のSASの患者さんの場合、交通事故を起こす頻度がSASではない人に比べて7倍高くなるとの報告があります(Findley, L, et al.;Am Rev. Respir. Dis.,138:337-340, 1998.)。
SASの怖さは居眠りだけではありません、睡眠中に酸欠状態になることで少ない酸素を全身にめぐらすために、心臓や血管に大きな負担がかかります。この状態が続くと、様々な生活習慣病の合併症を引き起こす可能性があります。
米国で医療保険加入者のOSAS患者170万人を対象とした報告では、以下の結果であったとされています(Mokhlest B. et al. Eur Respir J. 2016; 47(4): 1162-1169)。
SASの診断から治療までの流れ
在宅簡易睡眠検査について
SASが疑われた際にまず行う検査は、ご自宅で検査可能な簡易検査です。
自宅へ検査キットを郵送させて頂きますので、ご自身で指先・呼吸等のセンサを装着して頂き、睡眠中の状態を測定します。
ご自宅でのいつもの環境で検査が出来ますので、少しでもSASが気になる方はお受け頂くことをお勧めします。
簡易検査で最重症と診断された方は、CPAP(シーパップ)治療の対象となります。
軽症~中等症の方は、さらに精密検査としてPSG検査(ポリソムノグラフィー)を行う必要があります。
検査費用は3割負担の方で、約3,000円(初・再診療別)となります。
≫ 睡眠時無呼吸症候群 の検査動画を見る
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在宅Full PSG検査について
簡易検査で、軽症~中等症のSASと診断された方は確定診断のために在宅PSG検査を行う必要があります。
当院では、本来は入院で行うPSG(ポリソムノグラフィー)検査を、自宅にて検査することが可能です。脳波を含めたより精密な睡眠検査をご自宅で行うことで、入院による患者さんの負担(支払費用・時間的制約・プライバシー)等を大幅に減らすことが出来ます。PSG検査にて、無呼吸低呼吸指数が20以上と診断された方は保険診療でのCPAP治療の適応となります。
PSG検査の費用は、入院した場合ですと60,000~70,000円のご負担となりますが、在宅PSGでは約12,000円程度となります。
SASの治療
① CPAP療法(持続性陽圧呼吸療法)
CPAP療法とは、CPAP装置からチューブやマスクを通して常に一定圧の空気を送り、気道(空気の通り道)が塞がることを防ぐ治療です。
CPAP治療を適切に行うことで睡眠中の無呼吸やいびきが減少し、酸欠状態によって引き起こされていたSAS症状の改善が期待できます。
また、CPAP療法には睡眠の改善によって疲労感、日中の眠気、朝の頭痛、夜間頻尿等を改善するだけでなく、血圧を下げる効果や死に至る心臓血管事故をSASではない人と同じレベルにまで下げた、という報告もあります(Marin JM, et al. Lancet 2005; 365: 1046-1053.)。
CPAP治療は、検査を行い一定の基準を満たせば健康保険の適応となります。その場合は、定期的な外来受診が必須となります。
CPAP療法は継続することが大切になります、当院では土曜日でも日曜日でもSASの診療が可能です。そして、CPAP治療の状況をきちんとデータでご説明し、細かな問題点にもお答え致します。治療を継続するお力添えをしっかりとさせて頂きます。
CPAP治療の効果について
習慣的にいびきを生じる方、無治療のOSA(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)の患者さん、CPAP治療下のOSAの患者さん、健康な成人、それぞれの群における致死的および非致死的な心血管イベントの発生率を12年間にわたって比較しました。(上図)(右図)
その結果、未治療の重症OSA(閉塞性睡眠時無呼吸症候群)群では、心血管系イベントが他群と比較して有意に増加しますが、CPAP治療群では心血管系リスクや死亡率を有意に減少させる事が報告されています。このことからも、まずは睡眠時無呼吸症候群をきちんと診断すること、そして必要に応じてCPAP治療を導入し、それを継続することが重要と考えます。
Lancet 2005; 365, Marin JM et al : Long-term cardiovascular outcomes in men with obstructive sleep apnea-hypopnoea with or without treatment with continuous positive airway pressure: An observational study: 1046-53.
② その他の治療法
- 口腔内装置(マウスピース等)による治療
- アデノイド肥大や扁桃肥大などの手術治療
③ 生活習慣の改善
- 減量
- 体位、横向きに寝る
- アルコールを控える
*睡眠時無呼吸症候群は、既に治療法が確立されている疾患です。
きちんと診断し、正しい治療を受けることでOSAS症状の改善が期待されます!